小さい共同体の解体がなぜ問題になるのか

地縁血縁の小さい共同体が解体されたのが問題であるという考え方がある。しかしなぜそれが問題と考えられるのか。それは共同体と自分が分離できていない人にとって問題となるからである。

かつて人は生まれた地域から離れることなく暮らしていた。その共同体から離れて生きることができなかったので、その共同体の規範意識を自分の意識と同じと見なしていた。その共同体で暮らす人は他の共同体の存在を知らなかったので自分たちの共同体の規範が絶対的な正義だと盲目的に信じて生きてきた。他の共同体も実際のところ存在はしていたが、共同体間の人の行き来があまりなかったので、違う共同体規範意識が存在することを知らなかった。

そして環境の変化があまりなかったので規範意識が変わることもあまりなかった。そうした時代、人は自分と共同体が別のものであるという考えを持たなかっただろう。

その時代に適応してうまく生きるには自分という個人がないという状態で共同体と不可分の存在だと思っているほうがよかった。しかし近代になって共同体とは別に個人が自由意志を持つ存在であると定義されるようになり、個人としての自分の考えを持つ必要が生じた。だが自己と共同体が不可分な時代のスタイルを保ったまま変えることができなかったタイプの人もいた。

そういう人にとって小さい共同体が解体されなくなってしまったらどうなるか。自分が従うべき規範が分からなくなるのである。従うべき共同体の規範を自分自身と不可分と考えて埋没する状態で生きてきた人にとって深刻な問題になった。近代になって新たな考え方が生まれたからといってその考え方をすべての人が受け入れるようになれるわけではない。なれない人もいる。そういう人にとって問題が生じたのである。