物語について

ウィリアム・フォン・ヒッペルの「われわれはなぜ嘘つきで自信過剰でお人好しなのか」を読んでいた。その中に

物語を聞くことを楽しむ傾向を進化させてきた。 他者の艱難辛苦についての話をとおして、自らはなんのリスクも負わずに、それらの経験から得られる貴重で珍しい教訓を学ぶことができる。 さらに教訓の経験、現実感、世界と向き合うための共通の知識をメンバーに与えてくれるストーリーテリングには、共同体の結束を強める効果がある。物語を聞いて話すことは幸福感と人生の満足度を高めるための重要な源

 という内容が書かれていた。つまり創作された物語とはもともとはシュミレーションのためのものだったのだろう。将来どういうときにどういう行動をしたらいいのかを決めるときに物語が役に立った。そのため物語を作り出す人たちが尊重された。

すぐれた物語の話し手は集団に娯楽と知識を与える存在として高い地位が与えられた 

 

 のもそういうわけだ。

物語は感情を揺さぶる。なぜ感情が揺さぶられるのかというと、もともと感情は人に行動を促すためにあるものだからだろう。物語には主人公が感情を揺さぶられる場面が出てきてその後主人公がある行動をする。読んでいる人はこういう感情を抱いたらこういう行動をしたくなるのだと理解する。そして物語を読みながらさまざまなシュミレーションをする。こういう状態にでくわしたら自分ならどんな感情を抱きその結果どういう行動をすることになるのだろう。そしてその行動は事態にどういう結末をもたらすのか。さまざまな物語を読みながら将来自分にも起こりうる事態を想像し、そのとき自分はどうしたらいいのかを考える。そのために物語は発展していった。

しかしその後人は娯楽として創作された物語を楽しむようになっていった。その場合元々人を行動させるきっかけだったはずの感情は、物語を楽しむ要素になっていった。つまり感情を感じることを純粋に楽しむという新たな展開が起きた。

わくわくする、びっくりする、感動する、悲しむ、怒る、心が和むなどのいろいろな感情を感じることが物語を読むだけでできる。感情を感じることが実際の体験をしなくても楽しめる。それが面白い。

そして娯楽として物語を楽しむことになっていったように思う。