物語を作ること

誰かを説得しようとするにはどんな方法があるのか。人を説得しようとして理屈を説明してこれはこうなっているのでこう考えるのが正しいと力説しても難しい。人を説得するにはその人が自然に納得させられる状態を作るのがよい。その方法には物語が有効だ。その人が共感できる物語を創作する。その人が自然に受け入れたくなるような物語を作り、その人がその物語を自然に受け入れることができたときその人の思考は物語によって変容させられている。思想を広めるのに物語は有効なのだ。ただその人の世界観に合った物語を作らないと、その人はその物語に違和感を感じてその物語を受け入れることを拒む。違和感があって自分にとって面白くない物語だとその人はその物語を非難するだろう。自分の世界観とあまりにも異なる物語を人は拒絶するものだ。

しかしその人が信じている世界観にぴったり合った物語を作ればその人はその物語を共感して受け入れるだろうが、その場合その人の世界観は変わらない。それは物語の作り手としてはあまり面白くない試みだろう。物語の作り手としてはその人がその物語を受け入れることで今まで持っていたその人の世界観が自分では変わるつもりもないうちに自然に変容している状態になる、そういう変容を起こす物語を作りたい、それが物語創作者の願うことだろう。人の世界観を揺さぶりたい、その人を今まで持っていた世界観から脱却させ違う世界観を持つ人に変わらせたい、それが物語を作る人の動機なのではないだろうか。